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「家がいちばん」という合い言葉を、心のどこかにまいておくと、ずいぶんと暮らしが変わってくるのではないだろうか。
以前、一九五〇年代に登場した最初のプレファブ住宅「ミゼットハウス」は、子どもの勉強部屋として売りだされたと知って、へえ、と感心したことがある。
子ども専用の部屋が家になかったから、勉強させるために子ども部屋を、というわけだ。
プレファブ住宅を建てる庭はあるのだから、敷地が狭くて部屋数が確保できないわけではない。
「子ども部屋」という考えじたいが、その頃まではなかった、ということになる。
それなのに、いまや、家のなかで子ども部屋を最優先に確保するのが、ごくあたりまえ。
OLDKなどの考え方は、子どもの人数プラス一部屋で勘定するのがふつうだ。
でも、子どもには一人一部屋ずつあって快適に過ごしているのに、両親は二人で一部屋、しかも寝るための部屋だけなんて、なにか変ではないだろうか。
いま、私たち夫婦は、夫はアトリエ用の部屋、私は原稿を書くための部屋をそれぞれ確保している。
それが、家選びの最重要ポイントなのだ。
それぞれが快適に仕事ができる部屋を確保して、それからリビングルーム、寝室、最後に子ども部屋、という順番で部屋が決まっていった。
では、外で仕事をしている人や専業主婦・専業主夫には、自分の部屋はいらないのか。
そんなことはない。
私たち夫婦はそれぞれに仕事を持っているから「自分の部屋」について嫌でも真剣になるし、なくてはほんとうに困ってしまうのだけれども、たとえ仕事がなくても、「家」に「私の部屋」はあったほうがいいと思う。
いっしょの家に住むのが家族だ、と言ったけれど、それはつねにいっしょにいるのが家族だ、という意味ではない。
同じ家をみんなで維持していくことで、家族になる、という意味だ。
ちょうど、同じ地域に住む人たちがつねに親密でなくてもいいけれど、どこかで「その地域を自分の力でよくしたい」とか「私はこの地域の一員だ」と思っていると、住みやすい地域共同体ができる、というような感じ。
もし、その地域の人たちがなにかの新興宗教のように共同生活していると、かえって奇妙ではないか。
それぞれに自分の家がありながら、同じ地域共同体に住んでいる自覚を持つだけでじゅうぶんなはず。
同じように、「家」という家族の場のなかで、自分だけの部屋があったほうが、家全体のいごこちがよくなると思う。
とはいえ、家族四人だとして最低四つの個室に居間などを確保するのは、なかなかむずかしい。
その場合、夫婦がそれぞれの部屋を持つのを優先してもいい、と考えを変えてみてはどうだろうか。
夫婦であっても、それぞれ独立した人間なんだし、ひとりでやりたいこともある。
黙ってほうっておいてほしいこともある。
ずっといっしょにいると、息苦しくなることもある。
いっしょにいる時間やいっしょにいる空間をたいせつにするためには、ひとりでいる時間や空間をたいせつにしたほうがいい。
家は、まず夫婦がつくるものなのだから、夫婦がいごこちよくなることを考えたい。
よく、「夫婦はひとつの寝室か、別寝室か」という質問がある。
人それぞれだけれど、私は二十代の頃は「夫婦はぜったいひとつの寝室で、同じベッドじゃなきや」と思っていた。
違う部屋で眠るなんて、家庭内別居じゃない、とも思った。
けれども、いまでは、夫となかよくやっているからこそ、別々の部屋で眠ったほうがいい関係でいられると思うようになっている。
これは、私の眠りが浅くてちょっとの音ですぐ目が覚めるとか、夫は夜中に仕事をすることがあるといった理由も大きいのだけれど、「もう、こんなにいつもいっしょなんだから、眠るときみたいにいちばんリラックスするときは、ひとりで好きにするのがいい」という気分が大きいようだ。
寝室を別にするかどうかだって、それぞれが自分の部屋を持っていれば、それほど大きな問題ではなくなるだろう。
自分の部屋に自分のベッドがあればいいだけのことなのだから。
子どもはそのつぎでいいのだ。
部屋があるなら、一部屋与えればいい。
部屋が足りないなら、二人で一部屋使わせればいい。
子どもはまだ自立していない子どもなんだから。
プライベートを確立したくなったとき、家から巣立って、自分の力で獲得していくのが「大人になる」ということだろう。
日本の家のなかでは、プライバシーという言葉が、「不可侵条約」みたいに誤解されてきた。
が、いっしょに住むことをたいせつに思えば思うほど、プライバシーをいかに守るかがたいせつなことになってくると理解したほうがわかりやすいのではないか。
あくまでも、「いっしょに住む」とセットなのだ。
「いっしょに住む家」だからこそ、「一人で過ごす部屋」が必要になる。
それを、家のなかにはパブリックな場とプライベートな場がある、と考えてみると、すっきりわかりやすいと思う。
そうとらえると、部屋の割りあてだけでなく家事や家での過ごし方についても、どう考えればいいかが、わかりやすくなる。
家事については、パブリックである場所−居間やダイニングキッチン、洗面所やトイレ、玄関などでは、みんながいごこちよくなれるように努力したほうがいい。
居間に自分の仕事道具を置きっぱなしにしたり、読んだ新聞を広げっぱなしにしたりしない。
子どもが居間で遊んでもいいけれど、遊んだあとは自分の部屋に片づける。
玄関やトイレなどの掃除はおかあさんの役目じゃなくて、みんなが使うのだからみんながきれいにする。
それぞれの個室は、それぞれが自分で管理する。
でも、ドアから先には不可侵条約が重宝されているのではなく、みんなが住む家なのだから、個室を汚くしておいたり、知らない人が寝ていたりするのは、なしとする。
いつでも、お互いの部屋がどうなっているかくらいはヽだいたいわかっているほうが安心もするではないか。
子どもと暮らすおおげさなようだけれど、ときどき、「もう、これで生きるのはじゅうぶん」と思うことがある。
じゅうぶん出世したとか、生きるのに疲れた、とかいうことではない。
投げやりになっているのでもない。
生きるのは楽しいことだし、働くのも好きだけれど、どうせたいしたこともないのだから、べつに、いま死んだとしてもそれでいいや、という感じ。
これは、おそらく私だけの感覚ではなく、誰しもどこかで抱いている思いではないだろうか。
もしかしたら、六十代、七十代になって、残りの人生が短くなってきたときには、そんなふうに思わないのかもしれない。
ただ、この感覚は、物心ついた十代の頃からして、心のどこかに巣くっている。
たぶん、死ぬまでそこにあるような気がする。
この、「もういいや」という気分、それこそ、いまの若い人には親しいものかもしれない。
「なんで人を殺しちやいけないの」「生きていたって楽しいことなんかない」。
そう思うのは、世の中全体で突き進めるような目標がない時代だから、もともと人の心にあるものがさらけだされているだけなのだろう。
でも、だからこそ、「生きているって楽しい」と思えること、「私は、いま、ここにいる」と実感できることを、自分から探していくことに価値があるのではないか。
そして、私にとっては暮らしこそが、そう感じさせてくれるものなのだ。
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